スプレッドシートで誰でも始められる管理術
はじめに
6次産業化で「作って売る」を始めると、商品の味や見た目と同じくらい大切なのが“数字の見える化”です。難しい会計知識は必要ありません。まずは材料費・人件費・設備費に、販路ごとの手数料や送料を足し合わせて、価格と粗利益の関係を掴むところから始めましょう。
ここでは、現場ですぐ使える考え方と、スプレッドシート(Excel・Googleスプレッドシート)での運用方法をわかりやすくお伝えします。
原価の基本構造をつかむ
原価は大きく「つくるための費用」と「売るための費用」に分かれます。まずは”つくる”に集中し、1個あたりの単位原価を算出しましょう。
つくるための費用(製造原価)
- 材料費(原料+包材)
食材、調味料、容器、ラベル、緩衝材など、商品そのものに使うすべての材料を含みます。 - 直接人件費
仕込み、加工、包装などにかかった時間 × 時給で計算します。自分自身の作業時間も必ず含めることがポイントです。 - 設備費・共通費(オーバーヘッド)の按分
オーブン・冷蔵庫などの減価償却費、光熱水費、家賃、消耗品など、商品1個あたりにどう振り分けるかを決めます。
売るための費用(チャネル費)
販路ごとに発生する費用のことです。
- 決済手数料(クレジットカード・電子マネー等)
- 送料(EC販売、ギフト配送など)
- 出店料(マルシェ、催事)
- 直売所の歩合(売上の◯%など)
- 卸値の差額(小売価格の何割で卸すか)
これらを単位原価とは別に整理すると、販路別の採算が見えてきます。
単位原価と粗利益をシンプルに計算する
考え方はとてもシンプルです。
【単位原価(製造)】
= 材料費 + 包材費 + 直接人件費 + 設備・共通費の按分
【販路別の1個あたり粗利益】
= 販売価格 − 単位原価 − チャネル費
この2行が見えれば、価格の根拠ができます。「どの販路で何個売ると、いくら粗利益が出るか」を逆算できるようになり、経営判断がしやすくなります。
費用ごとの押さえどころ
材料費は”歩留まり”と”包材”で狂いやすい
- 仕入単価の一覧化:更新日も記録しましょう。価格変動を見逃さないためです。
- 歩留まりを見込む:皮むき、芯取り、加熱で重量が減る場合、出来上がり量に対して必要な原料量を正確に計算します。
- 包材の積み漏れに注意:容器、袋、ラベル、保冷剤、緩衝材など、細かい部品も1点ずつ単価を入れると抜け漏れが防げます。
直接人件費は”時間で積み上げる”
- 仕込み、焼成、冷却、包装…工程ごとに実際にタイマーで計測し、1個あたり何分かを出します。
- 時給はパートさんだけでなく、ご自身の作業単価も必ず入れるのがコツです。自分の時間をゼロ換算すると、利益が実態より大きく見えてしまい、経営判断を誤る原因になります。
設備・共通費は”簡易ルールで継続”が正解
複雑にしすぎると続きません。以下のような簡易按分で十分です。
- 設備(オーブン、冷蔵庫など)
購入額 ÷ 耐用年数 ÷ 年間生産個数 = 1個あたりの目安額
例:オーブン30万円、耐用5年、年1.5万個 → 30万 ÷ 5 ÷ 1.5万 ≒ 1個4円 - 光熱水費・消耗品
月額合計 ÷ 月間生産個数で簡易按分 - 家賃
製造に使っている面積や時間の割合でざっくり配分
精緻さより、毎月同じルールで継続することが大切です。
チャネル費は”販路ごとに分けて管理”
- 直売所:歩合、決済手数料
- マルシェ・催事:出店料、交通費
- EC:送料、決済手数料、梱包資材
- 卸:卸値(小売価格の何割で卸すか)
販路ごとに費用の性質が違うため、単位原価とは別に販路別の可変費として整理すると、販路ミックス設計(どの販路で何割売るか)がしやすくなります。
価格設定は3つの視点で組み立てる
① コスト積み上げ+目標粗利率
単位原価が300円、目標粗利率50%なら
→ 300 ÷(1 − 0.5)= 600円が目安
まずは「赤字にならない価格」を出しましょう。
② ベンチマーク(市場比較)
近隣や同カテゴリの価格帯を把握し、品質や量とのバランスで自店のレンジを決めます。道の駅、直売所、ECモールなどで類似商品をリサーチしましょう。
③ 価値・体験の上乗せ
- 原料の希少性(地域限定、有機栽培など)
- 手間・ストーリー(手作業、伝統製法、生産者の顔が見える)
- 試食、体験同梱、パッケージデザイン
これらで“納得の値ごろ感”を作ります。
この3つを突き合わせて、最終価格を決めます。
値上げが必要なときは、量や仕様の見直し(例:ミニサイズ化、パッケージ簡素化)と合わせて検討すると、お客様に受け入れられやすくなります。
スプレッドシートで始める”3枚構成”
複雑なシステムは不要です。Excel・Googleスプレッドシートで以下の3シートを作りましょう。
シート① 仕入れ単価一覧
| 原料名 | 規格・単位 | 単価(税込) | 更新日 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 米粉 | 1kg | 680円 | 2026/1/5 | A社仕入 |
| 卵 | 10個 | 320円 | 2026/1/5 | 地元養鶏場 |
※税抜・税込はどちらかに統一してください。
シート② レシピ原価表(商品ごと)
| 項目 | 使用量 | 単価 | 小計 |
|---|---|---|---|
| 米粉 | 80g | 0.68円/g | 54.4円 |
| 卵 | 1.5個 | 32円/個 | 48円 |
| 包材(箱) | 1個 | 30円 | 30円 |
| 作業時間 | 15分 | 1,200円/時 | 300円 |
| 設備・光熱按分 | – | – | 20円 |
| 単位原価 | 452.4円 |
※自動集計できるよう、SUM関数を活用しましょう。
シート③ 販路別の価格・粗利
| 販路 | 販売価格 | チャネル費 | 単位原価 | 粗利益 | 粗利率 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 直売 | 800円 | 40円(決済手数料5%) | 452円 | 308円 | 38.5% | – |
| 卸 | 560円 | 0円 | 452円 | 108円 | 19.3% | 小売価格の70% |
| EC | 800円 | 150円(送料+手数料) | 452円 | 198円 | 24.8% | 単品発送 |
関数は合計と掛け算・割り算が中心で十分回ります。
今日からできる5ステップ
- 主要商品のレシピと包材を洗い出し、重さ(g)に統一する
- 仕入れ単価を確認し、一覧を作成(更新日は必ず記録)
- 工程ごとの時間をタイマーで計測し、1個あたり分数に直す
- 設備・光熱の按分ルールを決め、単位原価を出す
- 販路ごとの手数料・送料を整理し、粗利益を比較する
まずは上位3商品から始めましょう。小さく始めて、続けることが成功の鍵です。
ミニケースでイメージをつかむ(数値は説明用の例)
商品:米粉シフォン 1個
- 原料費:120円(米粉、卵、砂糖、油、塩)
- 包材費:30円(箱、ラベル)
- 直接人件費:300円(1個15分 × 1,200円/時)
- 設備・光熱の按分:20円
→ 単位原価:470円
販路別の比較
- 直売(価格800円、決済手数料5%=40円)
粗利益 = 800 − 470 − 40 = 290円(粗利率36%) - 卸(卸値560円、チャネル費なし)
粗利益 = 560 − 470 = 90円(粗利率16%)
この差を踏まえて、「直売:卸 = 7:3」など販路ミックスを設計します。
よくある落とし穴(先回りで防ぐ)
- 包材の積み残し(ラベルや保冷剤などの”細かいもの”を忘れがち)
- 歩留まりの未反映(下処理で減る分を見込まず材料費が過小に)
- 自分の時給ゼロ計上(実際の利益が見えなくなる)
- チャネル費の過少計上(送料・決済・出店料の合算漏れ)
- 生産個数の見積もり固定(設備按分は年に一度見直す)
さいごに
原価と利益の見える化は、難解な会計ではありません。材料費・人件費・設備費を1個あたりにまとめ、販路ごとの費用を差し引いて粗利益を見る——このシンプルな流れを月に一度回すだけで、価格の根拠ができ、改善の打ち手が見えてきます。
まずは上位3商品から。小さく始めて、続ける。数字は”理想に現実を近づける道具”です。
数字を味方に、あなたの6次産業化を一段と強くしていきましょう。